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ハゲタカ(2009年)

ハゲタカ 壁紙


 寂寥とした中国の大地で、農夫の息子らしき少年が作物の種を蒔いています。突然、目の前の一本道を一台の赤いスポーツカーが疾駆していき、少年は不思議そうな目でその後ろ姿を見送っています。
 
 本編の一番初っ端の部分です。最初は何気なく見てましたが、物語が進み、このシーンの意味が分かってくると、実は凄く重要なシーンだったことが分かります。

ハゲタカ 鷲津政彦(大森南朋) 少年が赤いスポーツカーを見てから、長い月日が経った頃、“赤いハゲタカ”の異名をとる劉一華という男が、突如として、アカマ自動車に敵対的買収を仕掛けます。ホワイトナイトとしてそれを阻止せんとする鷲津政彦。手練手管、権謀術数の限りを尽くして、二人が繰り広げる一進一退の攻防劇が物語のメインです。

 主人公・鷲津政彦には大森南朋。私は最近になってやっとその名前を覚えた口ですが(しかもずっと“おおもりなんほう”と読んでた)、この作品からブレイクしたようです。メガネをかけると、どこか少し痩せた秋元康に見えてしょうがなかったですが、ルックスが完璧じゃない方が逆にリアリティが感じられて良いかもです。

 そして、“赤いハゲタカ”劉一華に玉山鉄二。完璧に二枚目の顔が冷酷非情な性格を際立たせています。

 物語は、最初から最後まで緊迫感に溢れ、2時間以上の時間があっという間に過ぎました。甘っちょろい優しさを見せることもなく、大義だの良心など入り込む余地もなく、どちらが善でどちらが悪というわけでもありません。そういう物語です。


ハゲタカ 鷲津政彦(大森南朋) &劉一華(玉山鉄二)


 鷲津も劉一華も感情に流されることなく、冷徹に事を進めていく様は、私のような小物からすれば憧れさえ感じますが、同じ世界の生き物ではないという遠さも感じます。が、それでも彼らはやはり人間でした。

 鷲津は、三島由香(栗山千明)の父親を自殺に追いやったことに今でも後ろめたさを感じています。
 誰かが勝てば誰かが不幸になることを弁えている鷲津。自分の策略で、敵側であるスタンリー・ブラザース証券の株価がみるみる急落していくシーンがありますが、右肩下がりのチャートが写ったモニターを見ながらも、鷲津は全然嬉しそうではなく、逆に苦悩したような表情を浮かべているのは印象的でした。

ハゲタカ 劉一華(玉山鉄二) そして一方の劉一華も、アカマを買収しようとするモチベーションが、彼の心の中の実にウェットな部分に源を発していたことが後半になって分かります。

 まだ観てない人のために詳しく書けませんが、初っ端にあった、赤いスポーツカーを見る少年の姿から全ては始まっていたのです。

 ラストで、鷲津が、中国にある粗末な一軒の家を訪れますが、その家の壁に、子供の絵で赤い車が描かれているのを見るシーンは本当に切なかった。この手の作品で涙が出るとは思いませんでした(ここまで書くとネタバレですかね? まあ、いいや)。

 まあ、この作品で、鷲津と劉一華のどっちが好きか?と聞かれたら、私は迷うことなく「劉一華」と答えることでしょう。そう思わせるほど、彼は心の中に純粋な気持ちを秘め、それは彼への共感を沸き立たせるに十分なものでした。


ハゲタカ 鷲津政彦(大森南朋)&三島由香(栗山千明) テレビシリーズの映画化作品というのは、大概、イマイチだなと思わされることが多いものですが、さすがはNHKと言いますか、この作品はかなりの出来でした。同じくNHK土曜ドラマの1シリーズを基にした『外事警察 その男に騙されるな』が現在公開中ですが、ネットで感想を検索するとなかなかの評判です。劇場に足を運ばれてはいかがでしょう(私は貧乏だから行けません)。


『ハゲタカ』(2009年)
監督:大友啓史
脚本:林宏司
製作:富山省吾
製作総指揮:諏訪部章夫、市川南
音楽:佐藤直紀
主題歌:『ROAD TO REBIRTH』
撮影:清久素延
編集:大庭弘之

出演:大森南朋玉山鉄二栗山千明松田龍平高良健吾柴田恭兵




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ALWAYS 三丁目の夕日 (2005年)

ALWAYS三丁目の夕日_8


ALWAYS三丁目の夕日_2 何度観ても名作だなあ、と私は思うのですが、この作品、当時をその目で見てきた世代の方々にはあまり評価されてないようです。「本当の昭和30年代はこんなんじゃなかったよ。町がきれい過ぎるよ。」と言います。BSプレミアム『山田洋次監督が選んだ日本の名作100選~喜劇編~』として放送されましたが、解説の山本晋也監督までが、好きな映画ではあるがと断りつつも、あそこが違うここが違うと「本当の昭和30年代」との違いをかなり指摘されていました。


ALWAYS三丁目の夕日_4 それでも私は思います。この作品に描かれている昭和30年代は、ご年配の方々が懐かしむ昔ではなく、その時代を知らない世代が憧れを覚える、夢の世界としての昭和30年代です。
 そこには、寅さん映画のように、決して悪人がいない世間があり、家族崩壊とは無縁の暖かい家族と団欒があり、本音で物を言い合える、家族のようなご近所さん達がいます。鈴木オートのお父さんは、自動車産業の未来を信じ、自分の工場を大きくするんだという夢に胸を膨らませています。現在のように、混沌とした未来しか思い描けない現代人とは違って、決して豊かではないけれど、人々の表情は明るい時代。そういう夢のような心地よさに浸るための映画ではないのでしょうか? 
 上記のように、「違い」を指摘をすることに何の意味があるのでしょう? 私には、年寄りが、「ワシはこの時代を知っている自慢」をしているようにしか見えないのですが?
 若い観客は、雑然とした、ある意味「汚い」、リアルな昭和30年代を観たかったわけではなく、(それは幻想かもしれないけれど)人間の温かみが残っていたと信じている夢の世界としての昭和30年代を観たかったのだと思いますし、そこが人々に受け入れられ、3本も続くシリーズになったのだと思うのですが、違いますか?


ALWAYS三丁目の夕日_1 年寄り連中に不評なのを承知の上で書きますが、絵そのものも私には文句無しでした。
 本当にCGか?と疑ってしまうほど、道行く人々と、本物にしか見えないCG背景を、違和感なく同化させる技術力は素晴らしく、その完璧な技術力をもって作られた、地平線まで見えそうな広々とした風景は開放感に溢れ、心癒すものがありました。スタッフが何十冊もの本を買い込んで研究したというセットも、内部までしっかり作られています。茶川商店に置かれた駄菓子や玩具の他、劇中に登場するあらゆる小道具も、現存する昭和30年代の物を全国からかき集めてきたのだそうです。
 それらが上手く組み合わされ、私たちが思い描く分には十分に、昭和30年代らしい昭和30年代の風景が作られています。私が物心ついたのは昭和40年代に入ってからですが、その頃見ていた周りの景色とも十分重なりますし、幼い頃の温かい記憶が呼び覚まされ、胸にキュンとくるものがありました。


ALWAYS三丁目の夕日_7 そこで繰り広げられるエピソードの数々も、ある意味ではファンタジーとも言え、心温まるものでした。
 茶川、ヒロミ、淳之介、他人同士の三人が一つ屋根の下、家族のようにライスカレーを食べるシーン。宅間先生が夢の中で見た家族団欒のシーン。ヒロミが、茶川から贈られた見えない婚約指輪を嵌めて、涙を流すシーン。親に捨てられたと思い込んでいた六ちゃんだけど、実は、母親からの手紙が毎月送られてきていたことが分かるシーン等、ベタと言えばベタな話のオンパレードですが、作り手が斜に構えず、良い話をストレートにぶつけてきます。それでこそ、こちらも素直な感動を味わうことが出来るのでしょう。何か悪いことがありますか!?ってんだ、ジジイ共!?
 ラストで、鈴木オート一家が、新しく完成した東京タワーを夕日の中で眺めるシーンは、タワーと共に歩む、これからの明るい未来を象徴するようでもあり、本当に感動的なシーンでした。名作です。シジイが何と言おうとも、この作品は名作です。


ALWAYS三丁目の夕日_3 ALWAYS三丁目の夕日_6


ALWAYS三丁目の夕日_5 それにしても感慨深いのは、薬師丸ひろ子が、もうお母さん役をやる歳になってたんだなあということです。私が、『野性の証明』『セーラー服と機関銃』に夢中になっていたのはつい最近だったような気がしますが、あの頃から、この作品が公開された2005年までの間に、気が付けば30年近い月日が流れていたんですね。薬師丸ひろ子、この時41歳。私がオッサンになるはずですね。ちょっとばかり淋しさも感じる作品でした。

ALWAYS 三丁目の夕日』劇場予告編


ALWAYS 三丁目の夕日 (2005年)
監督、脚本、VFX:山崎貴
原作:西岸良平
脚本:古沢良太
撮影:柴崎幸三
照明:水野研一
美術:上條安里
VFXディレクター:渋谷紀世子
録音:鶴巻仁
編集:宮島 竜治
音楽:佐藤直紀
主題歌:D-51 「ALWAYS」

出演:吉岡秀隆堤真一小雪堀北真希、もたいまさこ、小日向文世、三浦友和薬師丸ひろ子

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めがね(2007年)

 この手の地味な映画は苦手で、普段ならあんまり観ないのだけれど、テレビでたまたま見始めたら途中で止められなくなって結局最後まで観ちゃいました。本作と同じ荻上直子監督による『かもめ食堂』を観た時もそうでした。
 事件らしい事件は起こらず、登場人物達の姿を眺めているだけなのに、なぜか引き込まれてしまうものがあります。

めがね あるのは海と「かき氷屋」だけ。人も、メルシー体操をしにきたり、さくらさんのかき氷を食べにくる近所の人だけ。波とマンドリンの音しか聞こえない静かでのんびりした世界。これで106分の映画を作ったら絶対退屈なはずなんですけどね。それを感じなかったのは、そこに、疲れた人々にとってのユートピアが描かれているからかも知れません。
 いや、実際のところ、この映画のような生活をするには日々の掃除洗濯その他諸々、やらなければならない面倒臭いことが一杯あるはずなんですけど、それらは一切描かれてません。だからこそ良いのです。そんなのは見たくないですもんね。我々がこの映画に求めているのはユートピアなんですから。

 少し前に「スローライフ」という言葉が流行りました。自分流にその言葉を訳すと「丁寧な生活」といったところですが、私もそういう生活には随分憧れたものです。この映画では、そのスローライフのお手本を見ることが出来る点も良かったです。
 毎朝の朝食シーンがいちいち「丁寧」です。民宿だから当たり前ですが、ちゃんとした朝御飯を「丁寧」に作って食卓に並べ、ゆっくりと食べる。食材の多くは毎日海で釣ってくる魚(※)と近所で採れる野菜、去年漬けた梅干も欠かさず並べます。こういう食事、堪りませんね。気分まで丁寧になっていくようです。この映画の魅力は、半分は毎日の朝食シーンにあるのではないでしょうか。(※食卓には鮭も並んでたので全部が全部近所から調達したものではないと思われます。近くには大きなスーパーもあるようですし)

 さくらさんが小豆を煮るシーンも良いです。鍋の前で、両手を腰に当てて微動だにせず、煮える小豆を見ている。煮上がったと見るや素早く火を止めて言います。

「大切なのは焦らないこと」

 それは私たちの生活にも言えることのような気がします。そして、それが、この作品における荻上直子監督のメッセージだったように思います。理由も無く、習い性のように焦って暮らしてないですか? 私はそうだったように思います。これからは何事も焦らずジックリ行きたいですね。

 とにかく良いですよ、この映画。普段、仕事やら何やらで慌ただしく生きている人には特にお薦めです。癒しの世界がここにあります。私も好きな時に来て「たそがれ」てみたい。そして、飽きたら帰るんです。次の年の春にはまた来たくなるでしょうけど。とはいえ、私にはこんな遠い島に行く経済的余裕などありませんから、しばらくは映画だけ見て「たそがれ」ていようと思います。

めがね(2007年)
監督・脚本:荻上直子
製作:めがね商会
音楽 金子隆博
主題歌:大貫妙子「めがね
撮影:谷峰登
編集:普嶋信一
配給:日活

出演:小林聡美もたいまさこ光石研市川実日子加瀬亮


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K-20 怪人二十面相・伝(2008年)

 やっぱり凡才なのかなあ、あの人は・・・?

K-20 怪人二十面相・伝1 4日に『金曜ロードSHOW!』で放映されていたので観ましたが、遠藤平吉がなぜ源治らに助けられたのかが全然説明されてなかったり、初めて登場する源治を、平吉は以前から知っている口ぶりなのにどういう関係か説明されてなかったりで、脚本の杜撰さに「何だ、これ!?」と思いながら観てました。

 誰が書いたんだ?と思って調べてみたら「佐藤嗣麻子」です! そう、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』で散々な脚本を書いていた佐藤嗣麻子です!! この作品では監督までやってます。ああ、やっぱりダメだこの人・・・。と思いつつ、それにしてもおかし過ぎるので再度調べてみたら、上映時間が大幅にカットされているではありませんか。オリジナルは137分、テレビで放映されたのは114分。これはCM込みの時間だから、それを抜いたら100分ぐらい。30分はカットされています。多分冒頭に書いた疑問も、カットされた30分に描かれていたのでしょう。失礼しました、佐藤嗣麻子監督。

 それにしても、こんな妙なことになってしまうのに、30分もカットして放送するテレビ局の神経を疑います。もし調べなかったら、私は「佐藤嗣麻子はダメ監督」と完全に決め付けていたところで、監督にとっても非情に迷惑な話です。テレビ局にはご一考願いたいものです。
 後から知ったのですが、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』も大幅にカットされて放映されていたのだそうです。過去のエントリーで散々貶しましたが、ノーカットで観れば、また違った感想が出てきたかも知れないと思うと、山崎貴監督や佐藤嗣麻子にゴメンナサイです。

 と云うわけで、こんな状況ではまともな感想は書けません。アクションシーンやCGで作った帝都の風景など、良い所は結構ありましたよってことぐらいしか。子供向け作品という雰囲気ではありますが、後半は結構楽しめました。
 ただ、泥棒長屋の住人達や孤児等のセリフが、あんまり考えてないと言うか凡庸だなという印象は否めません。ところどころ挿入される「笑いどころ」も雰囲気を明るくはしているものの、どこかで見たような感じです。まあ、こういう点も、子供向け作品だと考えれば突っ込むのは野暮ですかね?

(以下ネタバレ注意)

 この作品の一番大きな弱点だと思う点は、子供の頃『少年探偵団』シリーズを読んだことがある人なら、「怪人二十面相の正体が明智小五郎だった」というオチは、みんな考えたことがあるんじゃなかろうか?ってことです。原作がそうなっていたのかも知れませんが、陳腐な発想そのままで作ってしまわず、ひと工夫欲しかったところです。多分、観客の多くが(子供のお客さんも含めて)途中から気づいてたと思いますよ?

K-20 怪人二十面相・伝2
K-20 怪人二十面相・伝(2008年)
監督・脚本:佐藤嗣麻子
製作:阿部秀司、奥田誠治
音楽:佐藤直紀
主題歌:オアシス『ショック・オブ・ザ・ライトニング』
撮影:柴崎幸三
編集:宮島竜治
配給:東宝

出演:金城武松たか子仲村トオル國村隼高島礼子本郷奏多鹿賀丈史、他


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パッチギ! (2005年)

パッチギ!2「あいつらならこんぐらいやるだろうな」と思っちゃいました。
 朝鮮高級学校の番長でもあるアンソン(高岡蒼佑)が、修学旅行で京都に来ていた日本人高校生に妹・キョンジャ(沢尻エリカ)が侮辱されたことから、朝高生らの大軍を率いて彼らの一行を襲撃、バスを横転させるという冒頭シーンのことです。

パッチギ!1 「あいつらならやるだろうな」と思ったのも、中学時代の私が朝高生に抱いていたイメージそのままだったからです。ツッパリ系のクラスメートから、朝校と喧嘩すると、(本当にやったら死ぬだろうけど)鼻の穴に割り箸を突っ込まれ、その割り箸を蹴り上げられるんだといった類の話を散々聞かされていたり、朝鮮学校との交流会のような催しがあった時、やってきた朝鮮学校の生徒会長が、上は長ラン、下は(私達は“横須賀”と呼んでいましたが)いわゆるボンタン、髪は茶色で剃り込みバッチリといった出で立ちで、私の学校のコワ~イ3年生より遥かに怖く、「生徒会長があれか・・・?」「やっぱり朝高って・・・」とショクを受けたりで、私の頭にはすっかり“朝高=怖いヤツら”というイメージが刷り込まれてしまいました。それが未だ抜けきれてなかったようで、冒頭のあのシーンを見てもすんなり飲み込めたのでした。

 大人になった今なら、生徒会長からしてそういう格好をしなければならなかったのには、それなりの理由があったんだろうなと分かるような気もします。この映画の中のアンソンら朝高生達も多分同じです。

パッチギ!5 この物語は、1968年の京都を舞台に、主人公である康介が在日朝鮮人のキョンジャに恋をし、民族の壁を乗り越えてアプローチしていくという青春恋愛ドラマで、言わば日本版『ウエストサイド物語』(もっと言えば『ロミオとジュリエット』)と言ったところでしょうか。『ウエストサイド物語』同様、キョンジャの兄・アンソンらも、日本人の不良グループである東高空手部と激しく対立しており、町で出会うたびに血みどろの喧嘩が繰り返されています。
 そんな中で、康介は何とかキョンジャの気を惹きたくて、坂崎酒店の若旦那(オダギリジョー:アルフィーの坂崎幸之助がモデルだそうです)にギターを習い、『イムジン河』を練習します。そして、北朝鮮に帰るというアンソンのための送別会に顔を出し、『イムジン河』を披露。在日朝鮮人のコミュニティーにも受け入れられていきます。

パッチギ!6 ある日、アンソン・グループが康介を交えてクラブで飲んでいたところ、その店が、アンソンらと対立する東高空手部主将・大西(ケンコバ)の父が経営する店だと知り、一暴れして逃げますが、途中、アンソンの子分であるチェドキが実に良いセリフを言うのです。

「ホンマは俺らかて喧嘩するの怖いねん。次の角曲がったら100人くらい待っとって袋にされてまう夢、何回も見たことあんねん」

 これが彼らの本音なのでしょう。喧嘩は怖いけど、日本人に舐められたら虐められるばかりだ。だから、目いっぱい虚勢を張っているんだということがよく分かるセリフです。上に書いた朝高の生徒会長も多分同じ心理だったと思います。私はここで初めて彼らに親近感を覚えました。

 でも、そんなチェドキも、東高空手部と大阪ホープ会との連合軍にリンチされた挙句、事故で死んでしまいます。
 葬儀のため、チェドキの遺体を収めるための棺桶を家に入れようとするのですが、入口があまりに小さく、ハンマーで壊さなければ入りません。悲しいシーンです。家というより小屋、在日の貧しさを、言葉によることなくこれほど端的に表現出来る井筒監督に脱帽です。
パッチギ!8 悲しいシーンがさらに続きます。康介が、日本人だという理由で、チェドキの叔父(笹野高史)によって葬儀の場から追い払われるのです。在日の人々と仲良くなれたと思っていた康介ですが、帰り道、橋の欄干にギターを叩きつけて泣きます。

 日本人と在日朝鮮人は一つになれないのか? この映画はひたすらそれを問いかけます。アンソンらはチェドキの復讐を決意し、鴨川(?)で、東高空手部・大阪ホープ会連合軍と乱闘を始めるのでした。


イムジン河』(作詞:朴世永 作曲:高宗漢 日本語詞:松山猛

イムジン河 水清く とうとうと流る
水鳥 自由にむらがり 飛び交うよ
我が祖国 南の地 想いははるか
イムジン河 水清く とうとうと流る

北の大地から 南の空へ
飛び行く鳥よ 自由の使者よ
誰が祖国を 二つに分けてしまったの
誰が祖国を 分けてしまったの

イムジン河 空遠く 虹よかかっておくれ
河よ 想いを伝えておくれ
ふるさとを いつまでも忘れはしない
イムジン河 水清く とうとうと流る



 康介は、ラジオ局のディレクター(大友康平)より予てから誘われていたラジオ番組に出演し、『イムジン河』を歌います。
 二つのグループによる激しい乱闘シーンのバックに流れる美しい歌。鴨川とイムジン河が妙にダブります。歌詞がまるで二つに分かれて対立する日本人と在日のようでもあります。

パッチギ!14 病院では桃子(楊原京子)が正に出産しようとしています。生まれようとしているのは、朝鮮人であるアンソンと日本人である桃子の子です。キョンジャは、康介の歌声が流れるラジオを葬儀の場に持っていきみんなに聞かせます。日本人を非難する言葉を浴びせて追い出した康介が、それでも『イムジン河』を歌っているのを聴いて、彼らはどう思ったでしょう? 観ていて自然と涙が溢れます。本当に“1リットルの涙”が溢れそうです。

パッチギ!12「私には夢がある。それはいつの日か、ジョージアの赤土の丘の上でかつての奴隷の息子とかつての主人の息子が兄弟として同じテーブルに腰を降ろすことだ。」映画の中でも、オダギリジョーがキング牧師の言葉を伝えてました。
 争って誰が得するねん? 一つになるってええやん、アンソンと桃子のように、康介とキョンジャのように。それがこの映画のメッセージでしょう。
 映画のテーマとしては陳腐かも知れません。でも、この映画の舞台である1968年から何十年経った今でさえ、ネットを見れば、未だに一部の日本人が差別的な言葉を平然と垂れ流している現実もあります。そういう連中には何を言っても通じないでしょうが、少なくとも自分だけは連中の尻馬に乗らないようしたいものです。


 原案は、『イムジン河』の日本語詞を書いた松山猛の著書『少年Mのイムジン河』。『イムジン河』という歌にまつわるエッセーのようなものだそうですが、井筒和幸監督と脚本・羽原大介の二人が、それを笑えて泣ける感動作に膨らませました。一つの名曲が一つの名画を生み出したと言いますか、この作品において、『イムジン河』はもう一人の主役でもありました。音楽監督を務められた加藤和彦氏が、ああいう亡くなり方をされたのは残念です。

パッチギ!3 毛沢東かぶれの高校教師を演じた光石研。フリーセックスを求めてスウェーデンに旅立ち、ヒッピーになって帰ってきた坂崎酒店若旦那のオダギリジョー。二人とも良い味出してました。正に体を張って“放送禁止歌”である『イムジン河』をオンエアしたラジオ局のディレクター役・大友康平。放送を阻止しにきた上司(松澤一之)に向かって啖呵を切るシーンはカッコよかった。と言うか「美味しいとこ持っていきやがって」という感じでしょうか(同時に思い切り笑わせてくれてるのですが)。忘れてならないのが、ガンジャ(真木よう子)の友達役・江口のりこ。スケバンの演技が堂に入ってて、ホントにほんの少ししか出てないのだけれど、私の中に鮮烈な印象を残しました。その他、この作品に出てくる俳優達は一人残らずみんな良かった。そして『パッチギ!』も、間違いなく映画史に残る名作の一つです。

パッチギ!(2005年)
監督:井筒和幸
脚本:井筒和幸、羽原大介
製作総指揮:李鳳宇
音楽:加藤和彦
撮影:山本英夫
編集:冨田伸子
製作:シネカノン、ハピネット・ピクチャーズ、衛星劇場、メモリーテック、S・D・P(スターダストプロモーション)
配給:シネカノン

出演:塩谷瞬沢尻エリカ高岡蒼佑、真木よう子、波岡一喜、尾上寛之、楊原京子、小出恵介、ケンドーコバヤシ、江口のりこ、ちすん、オダギリジョー、光石研、余貴美子、大友康平、 前田吟、他

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Author:Blik
作品や監督、俳優等について深い知識は持ち合わせておりません。ハッキリ言えばニワカですので私の評はアテにしないでください。また今日も頓珍漢なこと書いてやがんなあ、ぐらいの感じで読むのが丁度良いかと思います。

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