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野獣死すべし(1980年)

野獣死すべし 4 松田優作、1980年の主演作です。
 本作の主人公・伊達邦彦は、時折コミカルな味を加えつつ、野性味を基調にしていたそれまでの松田優作とはガラリと違い、戦場を渡り歩くうちに人格が破壊され、内面に狂気を孕んだ、一種の快楽殺人者であり、この作品も、80年代突入を機に、単なるアクション俳優から、何が何でも更なる上のステージに駆け上がろうとする優作が、己の演技力を誇示せんとした見本市的野心作です。

 この『野獣死すべし』出演にあたって、優作は10kg以上の減量をし、さらに上下4本の奥歯を抜いて頬をこけさせたというエピソードも伝わっており、また、優作の身長が、主人公・伊達邦彦の設定上の身長より5センチほど高かったため、「可能なら足を5センチ程切断したい」と真剣に語っていたと言うほど、本作は、優作が己の将来を賭け、目いっぱい入れ込んで作った作品でもあります。

 それだけやった甲斐もあって、この作品での優作の顔は今までと明らかに違います。顔色は青白いし、ヒョロヒョロと痩せこけていて、どこか、植物的です。野性味溢れる優作の面影はありません。それは、減量や抜歯によるものと言うより、もう、演技で顔を変えているのです。昔の優作の顔が好きな私としては、その、昔の優作の顔を本作のどこかでチラリとでも見たかったのですが、優作はとうとう最後まで見せてくれませんでした。これはこれで、凄いことではありますが。

 また、アウトロー世界の中をちょこまか動き回るというこれまでのパターンを捨て、伊達邦彦は、戦争という、より巨大な暴力の中を渡り歩いてきた男と設定され、言わばチンピラ的スケールの物語世界からの脱却も図られています。
 そういう作品でもありますから、松田優作主演のアクション映画の中では、ストーリー自体は一番面白かったです。

野獣死すべし 2

 しかし、正直に言うと、私はこの『野獣死すべし』での松田優作があまり好きではありません。上述したようなワケで、野性味ではなく狂気を前面に出してますし、「目が死んでる」と鹿賀丈史に言われるように、感情を持たない人間を目で演じる優作の、その目が気持ち悪くて仕方ないのです。私がそう思うことは、優作の勝ちを意味するのかも知れませんが。

 私がこの作品を初めて見た時はまだ10代で、その頃は、表向き大人しそうなインテリ青年が、裏では、善を超越した非情極まりないアウトローに豹変するという二面性に強く惹かれたものですが、今見ると、その裏の顔があまりにキ○ガイだし、ハッタリかますように朗読する萩原朔太郎の詩や、例の「君はいま美しい」という悪魔の洗礼の言葉も、(その頃無かった言葉ですが)いかにも「中二病」少年が好みそうな小道具です。当時の私もまた「中二病」が抜けきれてなかったのかも知れません。

 また、新境地を開こうと優作が入れ込んでる分、その狂気を孕んだ演技も、多少作り過ぎかな?と思うぐらい鼻につくシーンが多かったように思います。終盤、電車の中で室田日出男を殺し、更に鹿賀丈史を殺すまでの一連の演技に至っては、最早「臭い」という感じでした。よほど「演技派」という肩書きが欲しかったのでしょうか。今まで通りで良かったのに・・・。
 
野獣死すべし 1 この作品では、むしろ、鹿賀丈史のほうがインパクトがあって印象的でした。最初に登場した時の、うっかり手を出したら噛み付かれそうな、それこそ野獣のような凶暴性を感じさせる演技は凄かったです。ただ、それも登場した時だけで、後は、優作の中の、より巨大な悪を畏怖し、その前で恐れおののく飼い犬になってしまったのは残念です。最初のレストランでのキャラクターのまま、何か別の作品を観てみたかった。


 この作品を語る時、常に話題に上がるのがラストの難解さでしょうか。
 夢オチだという点では、皆さんの解釈は大体一致しているのですが、それなら、どこからが夢だったのか、よく分かりません。冒頭で青木義朗扮する警部を殺したところから既に夢だったのか、それとも、小林麻美の横に座ってコンサートを観ている途中で眠ってしまい、夢を見たのか?

野獣死すべし 3 答えは、最初に小林麻美が横にいた時と、最後で優作が居眠りしている時で、周りの観客の顔ぶれが違うことで分かりました。最初と最後のコンサートシーンは同じ時系列上にあるのではなく、最初が夢の中、最後が現実だと思われます。
 つまり、映画の冒頭からラストで目覚めるまでが全部夢だったのです。最初のコンサートのシーンは夢で、周りも夢の中だけに登場する観客です。だから、最後に登場する周りの観客とは顔ぶれが違うのです。

 目覚める前の段階で、二つの空席が写っています。小林麻美が途中で死んでしまったため混乱するのですが、これは、小林麻美も夢だけの人物で、本当はいなかったことを表していると思われます。そこへ優作が来て、二つの空席のうちの一つに座り、居眠りを始めたのでしょう。

 難解さの頂点は、優作がコンサートホールを出た時、何者かに撃たれて死ぬラストシーンです。
 撃ったのは誰かとか、なぜ死んだはずの室田日出男がいるんだ?とか、あれは優作の見た幻影だったのではないか?とか、挙句の果てには、いちいち意味を探るほどのラストシーンではないという意見も出てきたり・・・

 それでも敢えて私なりの解釈を書きますと、あれは、ふざけて死んだ真似をしているだけだと思います。ズッコケそうな解釈ですいません。

 その前のシーン、コンサート会場で目覚めた優作が何をしたでしょう? まず立ち上がって、「あれ? オレ、確かこういうポーズ取ってたよね?」という感じで、天に向かって指を突き上げた後、だだっ広いホールの中で「あっ」「あっ」と声を上げます。ふざけているのです。子供のようにその反響を楽しんでいるのです。この声を上げるシーンと、前の居眠りをしているシーンをひっくるめて、優作が、最早、居眠りするほどに音楽を解さない獣になってしまっていて、言葉さえ失い、獣のように声を発するだけになってしまったのだ、とする見方もありますが、考え過ぎでしょう。優作はそのまま外に歩いていき、まるで観終えたばかりの映画の真似をするように、撃たれて死ぬ真似をするのだと、私はこう解釈しました。向こうに立っている室田日出男は本当にそこに立っているのではなく、優作のイマジネーションです。小林麻美同様、実在しなかったと思われる人物ですし。

 作り手側も正解は用意していない可能性もありますが、こう考えるのが一番自然なんじゃないかと思うのですが・・・

『野獣死すべし』(1980年)
監督:村川透
脚本:丸山昇一
製作:角川春樹
製作総指揮:黒澤満、紫垣達郎
音楽:たかしまあきひこ
撮影:仙元誠三
編集:田中修
配給:東映

出演:松田優作小林麻美鹿賀丈史、岡本麗、根岸季衣、風間杜夫、岩城滉一、佐藤慶、室田日出男

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Author:Blik
作品や監督、俳優等について深い知識は持ち合わせておりません。ハッキリ言えばニワカですので私の評はアテにしないでください。また今日も頓珍漢なこと書いてやがんなあ、ぐらいの感じで読むのが丁度良いかと思います。

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